聖戦物語 奇跡が紡ぐ序曲~overture~
「………この事実は、どこまで広がると思う?」


「……音律士(クルーナー)のことは、フィフスにある文献を見なければ分からない。ファーストからフォースまでは、特殊な魔法使いがいる……程度にしか伝わらないだろう」


 フィフスの誰かが漏らさないかぎりだが、と付け足したナロンに、エミスは首を傾げる。


「広がったら、駄目なの?」


「駄目というわけではないけれど、下手をすればサリアはリジュエと同じように奉られたり、研究者たちにとってのいいモルモットになるかもしれないわ」


 今だって特殊な魔法使いということでその可能性に危ぶまれているのに、と暗く沈んだ声で零したフィニアに、エミスはなるほどと頷く。


「噂を抑制するには、どうすればいいかしら」


「……生徒である俺たちには限界がありますしね」


「だとしたら……」


 ヴォルがそう言ってじっとサリアを見つめてくる。それに習うように他のみんなもこちらを見つめてきて、彼らの意図を察したとはいえその視線が中々居心地の悪いものだと言い出せないサリアは思わず視線を泳がせる。


「―――理事長に、頼るしかないでしょうね」


 フィニアの冷静な言葉に、サリアはやっぱりと心の中で嘆息する。

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