聖戦物語 奇跡が紡ぐ序曲~overture~
 校長ティリー・ルフィスが学院を増築する際、資金援助を申し出たことにより、彼女の上の立場として理事長を譲り渡された御年45歳の大魔導師。


 ―――名を、ゼフロス。姓を、セレシード。


 20歳から29歳まで隣国カナンの王宮魔導士として名を馳せていた、血の繋がったサリアの実父である。


「……けれど、お父さんは多忙だから手紙がたまに届けられる程度なのに」


「それでも、あなたからの助けを見逃すような冷たい父親ではないはずだけれど」


 フィニアの言葉に、反論の余地はない。実際、その通りなのだから。


 学院を20歳で卒業した父は、呪紋騎士(クレストナイト)として王国カナンの国王の護衛騎士及び王宮魔導士という二つの役職を兼ね、側近として国王の信頼を勝ち得ていたらしい。


 しかし、突如国王から職を解かれて戻ってきたヴェーネ学院で、学院の増築費用を捻出していたティリーの部下として、サリアを育てる傍ら、王宮で稼いだ金を使って学院の増築援助をして、ここまでの大きな学院を造りあげた。


 しかし、既に御年50を過ぎていたティリーが兼職していた理事と校長のうち、彼女の死後も仕事を引き継げるよう概ねの仕事をこなす理事を任されるようになり、今はその仕事のうちのひとつをこなしている真っ最中……なのだ。


「………仕事の邪魔は、したくないんだけど」


「けれど、愛娘の緊急事態を知らずに仕事をこなしていたら、後で相当ショックを受けるでしょうね」


 実の娘のことだから、理事長抜きで会議を設けられる可能性は高い。サリアの稀有な素質を、研究材料に望む声は多いはずだから。


「校長も、もう若くないから副校長に仕事を任せきりだから、言うべきだと思うけどな」


 ヴォルの言葉に渋々頷き、サリアは立ち上がる。
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