聖戦物語 奇跡が紡ぐ序曲~overture~
「……ったくふざけんじゃねーぞあんのハゲ」


 ……教師らしからぬ不穏な発言を聞きとどめ、主を横目で見つめた使い魔は、やがて大仰にため息をつく。


「……我が主、いくらなんでも言葉を選びませんと。誰が聞いているとも限りませんよ」


「悪かったな口が悪くて。でも腹が煮えくり返ってんのをどうしようもできねぇんだよ」


「それを抑えるのが大人というものです」


「それを俺に求めるのか、リアン」


 ぎろりとゼフロスが睨んだ先―――赤毛の鬣を揺らし悠然と佇む獅子は、軽く跳躍してくるりと一回転すると、赤毛を逆立てた、そばかすの散った精悍さの中に愛嬌のある好青年の姿へと変化する。


 使い魔は主の力量によって行える事が制限される。リアンの場合は、ゼフロスがかなり高位の魔法使いのため、会話も行える上に人型に変身できるが、彼の娘はまだ未熟なために使い魔は本物の動物よりやや賢い程度にしか振る舞えないのが実情だ。


「……根っから子供なあなたが大人になるにはそれが第一歩とするべき関門でしょう。まあ、期待するのも無理だと諦めてはいますが」


「………ほんっと容赦ねぇなぁおい」


 それでも俺の使い魔かよ、とぶちぶち呟きながら取り出した剣の柄にはめ込まれた、赤い宝石―――カーネリアン。それが、リアンが生まれた結晶を生み出したゼフロスの媒介であり、安直な名前の由来でもある。
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