聖戦物語 奇跡が紡ぐ序曲~overture~
 居心地の悪かった少女らしい趣の部屋も慣れた頃。


 サリアが持ってきた冷めた夕食を平らげて、アルジスは傍らにある本を手に取り、読み進めながらも、時折サリアの魔法行使を見守ることは欠かさない。


 あの一件以来、元素の音を歌にして組み上げることができるようになったサリアは、周りに師となる者がいないために手探りではあるが、なんとか簡単な魔法を使えるようにはなっていた。


 少しずつだが目に見えて成果がわかり、そのたびに無邪気に笑ってアルジスに成果を見せ、次は何をすればいいのかと指示を仰ぎながら、また手探りで魔法を使う。


 その繰り返しでこそあるが、そんなささやかな時間はいつの間にかふたりの間では当然となっていて、欠かす度にアルジスはなんだか心許ない不安に覚えるようになっていた。


 例えば、実技の練習でうまくいかず、授業中魔法の行使をひたすら行なっていた故に彼女の疲労が濃いときは休まざるを得ず、そのときはそんな気持ちに陥って戸惑ってしまう。


 それがなんなのか分からずに戸惑っていたが、目の前の問題に向けて真剣に取り組んでいるサリアをこちらの事情で悩ませたくなくて、アルジスはいったいこの気持ちがなんなのか、ひたすら自問自答を繰り返す日々を送るようになっている。
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