聖戦物語 奇跡が紡ぐ序曲~overture~
「アルジス! 出来たっ」


 ふと、無邪気な声が響いて顔を上げると、嬉しそうに顔をほころばせる少女が持つ鉢に、枯れ枝に鮮やかな緑の葉が一枚つけているのを見つけた。


 つい先日、枯れ枝を持って来いと言って持ってこさせ、鉢に植えて「蘇らせてみせろ」と言った無茶な要求を、彼女はようやく果たすことができたらしい。


 喜びを億面もなく表情に出して笑うサリアに、思わず顔を綻ばせて賞賛の声を贈ると、サリアは満面の笑みで応えた。


「次は何を練習すればいい?」


 無垢な瞳が向けられ、アルジスは微笑みを浮かべたまま言う。


「そのままそれを成長させてみろ。生命属性(ウィータ)だから、いくらでも大きく出来るはずだろう」


 どの属性も、植物を成長させる要素を与えるものばかりだ。地属性(ソイル)の魔法を使って鉢の土の栄養素を活性化し、水属性(カレント)で土に水の恵みを与え、光属性(ブレイズ)によって光合成を促し、風属性(ヴェントゥス)で澄んだ大気を生み出し呼吸に必要な酸素を与える。緑属性(ルート)は植物の成長の具合によって、使うこともあるはずだろう。

 
 提示された次の訓練内容に頷いたサリアは、しかし今日は区切りのいいところで終えようと思ったのか、鉢を窓際に置いてこちらへ戻ってくる。


 一息つくサリアの額に滲む汗を、アルジスは服の裾で拭ってやる。アリスブルーが鮮やかな浅葱色に変わり、随分と真剣に取り組んでいたようだとアルジスは思う。




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