聖戦物語 奇跡が紡ぐ序曲~overture~
「時間はある。内に秘める魔力が少ない分、まめに休息をとって倒れないように自己管理は怠るな」


 要するに無理をするなと言われたのだと理解し、サリアは頷く。やがて何を思ったのか、サリアはそっとアルジスの方へ手を伸ばしてきた。


 予期していなかったことに反応が遅れ、彼女の思うままに捕らわれて、アルジスは動揺する。


「さ、サリア…っ」


 胸に押し付けられる柔らかな何かを理解するのを理性が阻む。ばくばくと早鐘を打つ鼓動が、異様に早い。


 もがくが、離れない腕を無理やり引きはがし、アルジスは熱が集まった顔を伏せてサリアがくっつけないように肩を掴んで一定の距離を保ちながら、幾度が呼吸をして鼓動を鎮めていく。


 いくらか落ち着いた頃には、淡い色で染まった頬の熱も失せたので、アルジスは顔を上げて長い睫毛に縁どられたペリドットの瞳に視線を合わせた。
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