聖戦物語 奇跡が紡ぐ序曲~overture~
 たった一本の槍は、彼の心臓を貫く前に一瞬で塵となって霧散した。青年の瞳に望んでいた光景は映し出されず、代わりに彼の殺意を再び煮えたぎらせるものを映した。


 それは、少年が纏う美しき銀の光。―――生まれて二十余年。彼が切望していた力が具現したもの。


「……神器の、加護…か……っ!」


 掠れた呻きは零れ、青年の脳裏にまたしても、という言葉がちらつく。またしても、阻まれた。―――少年を王だと定める、証に。


 これまで幾度と無く狙ってきた少年の命が、未だ潰えていないのは、間違いなくこの力があるからだ。幾らでも機会はあった。―――だが、欲してやまない加護は、自分にはなく、少年の瞳に光が宿る限り、誰一人として彼に害を与えることを許さない。


「……私は、お前が存在する限り神器に認めて貰えることは無いのだ……っ!」


「あなたは神器などというものより大切なものがあることが何故分からない!
民あってこその王だろう、こんな古くからのまやかしのような力など、王として君臨するならば、必要の無いものだということを!」


 この力は、王家の一族を守る力の一端に過ぎず、国を平和に治めるという王の責務を考えれば、戦場くらいでしか役に立たないこんな不可思議な力など、決して必要なわけではないのに。


 そんな切実な訴えすら、青年の耳には彼がこの力を得て満足していない贅沢者の発言のように聞こえて、苛立ちを煽らせるだけだった。


「うるさい! たかが踊り子風情の子が、私に意見するなっ」


 少年の耳朶を劈いた言葉が、彼の頭の中を反響する。


 だんだんと瞳に激情が燃え上がり、わなわなと身体を震わせた少年は、刹那――。
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