聖戦物語 奇跡が紡ぐ序曲~overture~
 真っ赤な顔で喘ぐように叫んだサリアに、エミスは数秒沈黙していたが、やがて静かに応える。


「いるよ」


 その顔は先程の無邪気さが消え、どこか寂しそうな笑み。


「………けど、私はそのひとの傍にずっといられないの」


「…………どうして?」


 尋ねたサリアに、エミスは寂しげな表情のまま、どこか悲しげな感情を入り交じらせた放言をサリアの耳に届けてくる。


「……そのひとといると、私は思い知るから」


 何を、とは聞かなかった。――――聞けなかった。


「……もう、行くね」


 サリアの想い人の追求を止め、逃げ出すように立ち上がったエミスに掛ける声もなく、サリアは立ち尽くしていた――――…。
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