傍においで
「今日の八時に八頭神社に集合な。」

下校時に野沢が言った通りに、俺は八頭神社に向かっていた。
その道中で、俺はまた彼女を見つけた。
実は夜に彼女を見るのは初めてで、俺は若干ぎょっとした。
彼女は夏だというのに、長袖の黒いセーラー服姿で、今は公園の滑り台の上で泣いている。
月明かりの下で、心細そうに。
そんな姿を見て、ふと俺は初めて彼女に話し掛けてみたいと思った。

「今夜は月が綺麗だなー。」

直接話し掛ける勇気は流石になくて、俺はわざと独り言のように聞こえるように呟いた。
そして、自らの情けなさに俺の急激に頬が熱を持つ。
実際俺は同い年の女子とも上手く喋れない程に、極度の恥ずかしがり屋であった。
それが、幽霊相手なら大丈夫だろうと甘く見たが故に、結果はこの情けない状態。
俺はあまりの恥ずかしさに、その場から走り出しそうになっていた。

「本当にね。」

「…え…。」

だから彼女から返事が返ってきた時に、俺は驚きのあまり彼女を二度見した後、間抜けな声まで出してしまった。
それはあまり大した音量も持っていなかったはずだった。
しかし、俺の動作が予想外にせわしなかったせいで、図らずも彼女の視線は俺のそれと、見事触れ合う事になったのだ。
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