彼×私×彼女の事情
「旅行にでも行かれるんですか?」
早々に疑問をぶつけた。旅行の話で盛り上げようと思った。
「違うわぁ。お父さんと喧嘩して家出してきたの」
「はあ?」
この後に続く言葉って……。あれしかないよねぇ……。
「だからここにしばらく泊めてね」
やっぱり、やっぱりそうなる。
「狭いですけど……」
「俊が泊まれるんだから私ぐらい泊まれるわぁ」
そこをそうやって使うんだ。勉強になるなぁ〜ってだめだめ。
「それに私のこと家族みたいに思ってくれるんでしょ。俊が嬉しそうに言ってたわぁ」
!!
笑顔が怖い。確かに話し合って約束した。あげ足を取られてる気がする……。これ以上戦っても負け試合になりそうだ。
「お義母さんさえよければ……」
言ってしまった。自分の家で安らぐことが出来なくなることを解りながら言ってしまった。苦笑いすら出来なくなる。
「ありがとう。でも、美樹さんにもいいことあるのよ。俊は一人しか居ないわぁそうなると移動時間だって惜しいでしょ?ここに私が居るんだから別の場所に会いに行く必要ないから会える時間が長くなるわぁ」
「はぁ」
ため息混じりの返事しかできない。すごく前向きととらえていいのだろうか。いや、流れに流されてはいけない。
「気も使わなくていいわよ。家政婦を雇ったとでも思って。掃除する暇もないでしょ?あちらこちらに埃もたまってるようだし。掃除もするし料理もするわぁ。それに俊の好みだって知ってるから相談にのれるわぁ。赤の下着とかはどうかと思うけど」
!!
紙袋をソファーに置いたままだった。シールで真ん中を止めてあるだけだから両端からは丸見え。中の袋は要らないからいつも紙袋に直接いれてもらうエコ行動がアザとなった。見られてしまった。
最悪……。
家政婦扱いできないし俊くんの下着の趣味まで知ってるの?
ゾッとした。
インフルエンザは治ったはずなのに悪寒が走る。