彼×私×彼女の事情
(ガチャ、ガチャン)
「痛た」
いきなりドアがあいたのでそのまま頭をドアでぶつけてしまった。
「ごめん。ってなんでそんなところに座ってるの?チェーンかけたの?中に入りたいからあけてよ」
俊は何事もなかったようにさわやかな笑顔。かっこいいと思ってしまった。ズルイな……。
「やだ」
「なんで?」
「約束を裏切った。私とお義母さん天秤にかけてお義母さん取った」
俊の顔を見てしまうと言えなくなってしまう。だから背を向けて答えた。
「はぁ?そんな……大事な人どうし天秤になんかかけれないよ。どっちも選べない」
「裏切ったのだって今回が初めてじゃない。何度もあって……もぅ我慢できない」
「困ったなぁ。どうしたらいいの?」
「……」
涙が出て堪えるので精一杯。答えるなんて出来なかった。
「でもこれだけは言わせて欲しい。僕にとって美樹も母さんもどっちも大切な人なんだ。だから天秤にかけるようなことは絶対にしないしどっちかを選べって言われても選べない。だけど美樹を裏切るようなことは絶対にしない」
美樹を選ぶって言って欲しかった。そしたらチェーンを外してドアを開けて俊の胸に飛び込めたのるのに。ねぇ、俊、嘘でも言葉が欲しい。私は泣きながら願った。
そして俊はそっとドアを閉めた……。
私の願いは叶わなかった。
(ドン)
ドアに何かあたる音がした。涙を堪えるのも限界に達し声が出そうだった。ドアの音など気にしていられずインフルエンザで重い体を動かしリビングに向かった。そこで思いっきり泣いた。
声を隠すようにして。