絶対、逃がさない!(短編)
 案の定、陽菜は焦り過ぎたからか、久しぶりの自転車だったからか、見事に坂の下、転んでた。

 倒れた自転車の横に、泣きそうな顔して座り込んでる。



「なにしてるわけ?」



 ちょっとあきれながらつぶやいて、陽菜の自転車を起こしてやった。

 

「坂道、す、スピードでちゃって怖くて、キュってブレーキかけたら、転んじゃったの」


 恥ずかしそうに、陽菜はうつむいた。

 見た限り、すこしすりむいたくらいで、血が出るほどの怪我はしていないようで、おれはほっとした。

 すわりこんだ陽菜に、手を差し出す。

 陽菜はおれを見上げた。

 すこし、顔が赤い。目が潤んでいる。



「あ、ありがとう。で、でも、へんなことしない?」

「・・・」



 違う意味で、いじめたいかも・・・おれは真剣にそう思った。

 あんまり、陽菜がかわいいから。


< 34 / 35 >

この作品をシェア

pagetop