【短編】嘘つきなキミに、キス。




たぶんあれは、俺が入学してすぐのことだったと思う。


何だかすぐ家に帰る気にはなれなかった俺は、校内をぶらぶらとしてた。


別に何を見るでもなく、ただぶらぶらと。


…そして俺は出会ったんだ。


道端に咲く花を愛でる、一人の女に。


遠くから見ていても、その女が美人であることはハッキリと分かった。


(花の妖精みてぇだ)


柄にもなく、そんなことを思った。


そして、俺はじっとその女を見ていた。


美しい黒髪が、サワサワと風に靡(なび)いた。


と、そのとき。



――――ふわり。



そこに、もうひとつの“花”が咲いた。


(う、ゎ…)


俺は胸が高鳴るのを感じた。


(なんつー顔して笑いやがる…)


儚げにそっと微笑む女に、俺は見惚れた。
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