【短編】嘘つきなキミに、キス。
そんな俺の視線に気づいたのか。
女はふと頭を上げて、視線をうろつかせた。
(あっ……)
そう思ったのと同時に、女の瞳が俺を捕らえた。
凛と背筋を伸ばし、痛いくらいに真っすぐ俺の顔を見てくる。
ここは四階だ。
相手の顔など、ハッキリ見える訳ない。
なのにどうしてか俺には、女と確実に目が合っている気がした。
静かに時が流れた。
数秒だったか、数分だったか。
きっとものすごく短い時間だったんだろうが、俺にはとても長い時間のように思えた。