【短編】嘘つきなキミに、キス。
そして、そんな二人の沈黙を破るかのように帰宅を告げるチャイムが鳴り響いた。
その時、女の張り詰めていた瞳がふっと和らいだ。
『ま、た、ね』
輝くような笑顔で、女はそう言った。
もちろん声なんて聞こえない。
(じゃあな)
だけど、透明なソプラノの声が聞こえた気がした。
その女が、冴島だった。
注意して噂に耳を傾けていたら、案外すぐに分かった。
…まぁ、色んなおまけもついてきたがな。
そのおまけってのが、これか?
ハッ。
馬鹿馬鹿しい。
『――――何だよ、冴島に惚れたか?』
ケラケラと笑う声に、俺は一旦思考をストップさせた。