prayGirl

座ったままマイクを握って、俺の親友は歌い続けた。

無表情に。

無感情に。

「楽しいか?」

俺は間奏に入ってマイクを口から離した鈴木に聞いた。

時間がゆっくり流れる。

鈴木がこっちを向いた。

聞いてはいけなかったのだろうか。

そもそも、なんで俺は聞いたんだ。

笑うんじゃなかったのか。

軽薄に。

「楽しくない」と答えられたらどうするつもりだよ。

「お前が連れてきたんだろ」とでも言われたら?

「歌なんて嫌いだ」と、「お前なんて嫌いだ」と言われたら……?

鈴木の闇に触れてしまったら、俺はどうすればいいんだ。

心臓から流れる血が、脳でどくどくと響いた。

何考えてんだよ、この臆病者。

そんなわけないだろ。

「楽しくないのか?お前は」

聞き返された。

「俺は楽しんでるよ」

さらっと。

どこまでも自然に鈴木は言い放つ。

間奏が終わって歌詞に入る。

鈴木はまた無表情に無感情に文字を追う。

低音が、心地よく響く。
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