prayGirl

長い夢でも見ていたかのようにぼんやりした意識の中で、私は大樹の車に乗り込んだ。

霧掛かった脳内に直接声が届く。

「今日は駅裏のスタジオだよね。荷物は?」

「持ってる」

「楽譜忘れてない?」

「持ってるから。早く行こ」

助手席でシートベルトもせずに大樹を促した。

窓の外の景色がゆっくり動き出す。

「危ないよ」

前を向いたままで「ベルトして」と付け足す。

スタジオまでは10分程度だ。

お前が上手く運転すればそれで済むじゃないか。

そんなことを思いながらも私は大樹の言うとおりにする。

窮屈だ。

後部座席でケイがクスクスと笑う。

大樹には聞こえない笑い声が車内で反響した。
< 17 / 30 >

この作品をシェア

pagetop