prayGirl

「笑ってんなよお前」

「だって面白いから」

「とりあえず黙れ」

沖野は洗剤塗れの手で俺の肩を叩こうとする。
それをひょいと避けると、俺はまた台所に向かった。

「てかさー…」

「何」

「やっぱなんでもない」

「何だょ」

「なんでもないって言ってんでしょー!いいからさっさと残りの皿とか持って来なさいよ!」

「……はいはい」

俺はもう一度部屋に戻って茶碗を重ねた。

アパート2階の狭い部屋だ。どこに居ようと会話は成り立っ。

「コップはいいよー。まだお茶飲むからー。あ、それこっち置いたらさ、机拭いて後は休んどいていいよ」

ここは俺の家なはずなんだが…?

そう思いながらも言う通りにするのは甘えだろうか。

沖野じゃなければ一言「俺がやるよ」と相手を労ると思うんだが…。

まぁいいか。

俺と沖野ならこれが普通だし。

それにしても、

「沖野さ、お前」

「何?」

「…やっぱなんでもねぇ」

多分いい嫁になるよ。

口にするのは意識してるみたいで恥ずかしかった。

本音なんだけどな。

もし口にしていたら沖野は何と答えただろう。

喜ぶか?

いや、照れて怒るだろうな。

何故か口元がニヤけて仕方ない。

「何それ、さっきの仕返し?」

「は?何のこと?」

「…何でもねーよ!ばか!」

< 29 / 30 >

この作品をシェア

pagetop