prayGirl
本当は別に大したことじゃないんだ。
学校生活は充実している。
でも不機嫌そうに振る舞うことで自分の気持ちを確かめていたかった。
私は彼が好きなんだ。
そう言い聞かせていなければ、ここにいる意味がなくなってしまう。
吐いた溜め息がわざとらしく聞こえて、なんだか恥ずかしくなる。
「沖野、お前顔怖いよ」
隣の三好が軽口を叩く。
「はぁ?うるさいなぁ」
おどけた調子で答えたはずなのに、三好は真剣な顔で聞いてくる。
「なんかあったの」
三好知之とは中学からの付き合いだった。
恋人だった時期もある。
男勝りなせいか教員共から不良みたいに扱われる私を遠ざける人間は少なくないが、三好はそんなこと絶対しなかった。
「何もないって…こんなつまんない授業中に何があるっていうんだよ?」
「それもそうだ」
少しの沈黙。
嫌われ者の井原の声が耳に入ってきて鬱陶しい。
三好が「そういえば」と切り出した。
「今度いつやるの」
「今週末、土曜の夜に」
私の所属するバンドのライブの話だった。
学校で私がバンドをやってることを知っているのは三好を入れて、たったの四人だ。
別に隠すことではないが言いふらすことでもない。
「今日も練習だから」
「じゃぁ部活来ないんだ」
「そうだね」
「おい!聞いてるのか!?」
遮るように井原が叫んだ。
一体誰がと辺りを見渡し、それに気付く。
「お前だよ、三好!沖野も!聞いてなかっただろお前ら」
クラス中の視線が集まっているのが妙に不快だった。
世渡り上手な三好は「ははっ」と笑って井原を誤魔化した。
「……ちっ」
私は二回目の舌打ちをして井原を無視する。
井原が何か言ってる。
それよりも浅倉のクスクス笑う声がうるさかった。
浅倉を睨もうとして、彼と目が合った。
彼が吹き出すように笑う。
頭に血がのぼった気がした。
「何よ」と口パクで抗議して、代わりに窓の外を睨んだ。