prayGirl
午前最後のチャイムが鳴って、彼が私の方へ小走りで近づいてきた。
両手をぱんっと合わせて、悪戯をした子供のような顔をした。
「金貸して!」
「またかよ!?」
また昼飯と財布を忘れたらしい。
私は自分の財布から五百円玉を取り出すと、彼の掌にそれを乗せた。
指先が硬い皮膚に触れる。
怪しまれてはいけない。
ずっとそうしていたい気持ちを押し込めて、私は手を離した。
「ちゃんと返せよ?」
「気が向いたら」
「今までのも」
「…………おぅ」
彼は「パン買ってくる!」とか言って教室を出ていった。
「いくらになったよ?鈴木の借金総額」
「忘れた。5000円くらい?」
「大金じゃん」
三好が「やるなぁ鈴木…」とか言いながら机を3つ寄せた。
鈴木浩一。
私の片想いの相手はそこまで遠い存在ではない。
鈴木は三好と一緒で中学からの親友だ。
人付き合いが得意でない鈴木にとって、一番親しい女子は多分自分だ。
だから浅倉なんか、別に大したことじゃないんだ。
ただ時々不安になるだけ。
私は恋愛対象なのかな、なんて。