こんな私でも愛されますか
私は原稿を放り出し、診察開始時間の午前十時を待ち、心療内科へ行くことに決めた。
 
か弱い私を演じるために、秀太郎にメールを入れる。

『ちょっとこの頃落ち込むことが多くて……病院に行くことにしたの』
 
自分でメールを打ちながら、思わず笑ってしまった。

頭がおかしいと思うのなんて、どこの誰がメールできるか。

私は秀太郎に養ってもらう計画を練っていた。

きっといまの仕事を辞めたら、まともな女子になれる気がする。
 

近所のメンタルクリニックに訪れると、想像以上に小綺麗な待合室へ通された。

波の音が静かにBGMとして流れている。

平日の午前中ということだけあって、患者は少なかった。

待合室にいる患者はどこか皆疲れているようだ。

元気だったら来ないわなと自分で自分にツッコミを入れつつ、柔らかな白いソファへもたれかかるとそのまま眠りに落ちてしまった。

「三番さん、診察室へどうぞ」
 

三番さんと何度も看護師が呼ぶ。

そういえば受付で三番という番号札を渡されたっけ。

垂れてしまったよだれを拭い、診察室へフラフラと入る。

まだ眠りから完全に覚めていないようだ。
 

白衣を着ていない医者というのは初めて見た。

患者がより心を開けるような心遣いをしているのだろうか。

まだ三十代であろう細身の男性医師がちらりと私の外見を確認した。

もしかしたら、何日もシャワーを浴びていないから、脂ぎった髪の毛にびっくりしたかもしれない。

いやいや、相手は医者だ。

ちょっとやそっとのことでびっくりしないはず……。
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