めあり、ほんとうのわたし
「ま、そんなわけよ」

アンヌ・マリィの口調は、夕食のメニューを決める気軽さで、人の命を奪うことを、めありに説明する。

「あの、どうして・・・・・・わたしなんですか?」

「別に。たまたま」

マリィは意味深な笑顔で、めありに微笑みかけた。

彼の机の上には、次の依頼者の写真がばらまかれている。

 
【女】


笑ったり。

歩いていたり。

中には情事の後にベッドの中で気だるいまなざしを向けているものもある。


【女】

長く豊かな髪、華やかな美貌、蠱惑的な肢体。理想的な女だ。


・・・・・・写真を見るかぎりでは。


でも、めありにはわかる。

アンヌ・マリィも、それを、知っている。
 

「他の人ではだめなんですか?」

「申し訳ないけどレベルが違うんだよ。仕事のレベルがね。これは君にぴったりだと思ってさ」


人間と話している気がしない。

アンヌ・マリイはよくできたしゃべる機械人形のようだ。

そして、姿だけではなく心ですら、人とは違うものでできているのではないかと思う。

「場所は俺のうち。母屋以外ならどこを使ってもいい。死体は、うちの庭のきっ先にある崖から海に落とせば、一番楽だろうな。山の中に埋めてもいいけど、敷地内にそんなもんがあると、嫌がるヤツがいるからな。なるべく簡単にすませてくれ」


『簡単』に、ひとの命を奪う。

めありは自分の手をじっと見た。標準より大きな手、長い指。

この手で、人を殺す。


「決行は土曜日。金曜に向こうがうちで最期の一夜を過ごすことになっている。俺たちも金曜に入って、最終確認だ。時間は早朝がいいだろう。雨の予報が出ているから、都合もいいだろう。成功を確認したらいつも通り報酬を払う、と」

「どの段階で連絡を?」

「死亡を確認した時点で。確認には、今回俺と、依頼主が立ち会う。それから死体の処理だ」

マリィはめありに指示をした後、ため息をついて、タバコに火をつけた。

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