めあり、ほんとうのわたし
諸川はいきなり、向かいに座る、めありの胸を手のひらで覆うと、首をひねりながら

「これがちょうどと思うけど。女心はようわからんな」

と、真面目な顔で言った。

めありは頬を真っ赤にして、あわてて胸に置かれた諸川の手をどける。

「先生、セクハラですよ!」

「医療行為。患者さんの身体、よう知らんで、医者がつとまるかい」

ふたりのやりとりを見ていた、派手可愛らしい看護士は、あきれたように諸川の腕をひねりあげる。

「センセ。相手が嫌がってると、立派なセクハラですって! ほら、診察は終わりですか!?」

「・・・・・・は、はい~。じゃ、めありちゃん再来週ね。なんかあったら、夜中でもええから電話ちょうだいな」

オヤジくさい行動と容姿の爽やかさのアンバランスさに、めありは思わずくすりとした。


「ほんと、うちのセンセには困っちゃうわ。ごめんね、めありさん」

注射の準備をしながら、看護士はめありに軽く謝罪した。

「センセは、女って名のついたものには、ほんっとうに目がないから。医者で、あの顔でなきゃ、とっくの昔に犯罪者よね」

「それって、わたし喜んでいいのかな?」

「え、どうして?」

「だって・・・・・・」

「な~にいってんの。当然じゃない! センセほめてたわよぉ。めありさんはイマドキ珍しい、純情可憐なカンジがいいって」

そういって彼女は、めありの背中に一発気合を入れると、ホルモン注射の針を肌に刺した。

(わたしのいないところで、名前でてるんだ)

注射の痛みより鋭い照れくささが、めありの心をちくちくつつく。


(なんか、嬉しい・・・・・・)


気づかないまま、めありの頬が染まっていく。
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