めあり、ほんとうのわたし
「うちの庭に、クチナシをたくさん植えてちょっとした花の迷路みたいにしてるところがあるんだけどさ・・・・・・」

独り言のような口調で、マリィは答えた。

「俺のばぁさんか、ひぃばぁさんかがクチナシが好きでね。西洋の貴族の庭なんかをまねて作らせたんだよ。俺の前にアンヌ・マリィの名前を名乗ってた女も・・・・・・それは俺の叔母さんだったんだけど・・・・・・好きだったんだ。そのクチナシの迷路がね。確かお前も、好きだったよな」

「ええ」

「今ぐらいの季節になると、叔母さんとむせかえるくらいの花の香りに包まれながら、迷路を歩くんだ。沈んだ白さの大きな花が、重い甘さをふりまきながら、無数に咲いている。そこを出ても、身体からあの匂いが漂ってくるんだ」

「それは・・・・・・素敵ですね」


「でも、今はクチナシが嫌なんだ。嫌いなんだっていうか、嫌いになったんだ」


マリィは二本目のタバコを、灰皿でつぶすような乱暴さで消して、三本目に火をつける。

今まではずさなかっためありを射るような眼差しを、椅子ごと窓の方に向いて、彼の表情からして見えないようにしてしまった。

暗い窓にかすかに映る彼が、めありに語り続ける。


「クチナシは花の終わりが、醜いだろ? あんな深い白が、端から茶色く腐りはじめて、それが花びらじゅうに広がって、力尽きたように散っていく・・・・・・。その落差が、俺は嫌になった」

「確かに、マリィさんの言うとおりだと思います。だけど、それは他の花でも同じじゃあありませんか、アジサイとかは特に」

「そう、そうだな。同じだよ。花が枯れていくことはどれも醜いことだ。でも、あのクチナシが腐っていく、腐った花びらがいくつも地面に落ちているのが、哀れに、みじめに感じるんだ。美しく咲いていた思い出を残しながらな」



「美しい思い出だけ、残したいんだ。それが依頼者の願いだ」



 
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