めあり、ほんとうのわたし
音もなく降る雨に濡れながら咲き誇るクチナシは、その肉感的な芳香で広大な庭をつつんでいた。

手入れされた花叢の中で、めありは息を殺して今日の獲物を待っていた。

レインコートの中で、めありは殺しの道具の点検を、今一度行うと、おびえた心を振り払うように目を閉じた。


雨が、音も、人の気配も消し去っていた。


(殺せるかしら・・・・・・)


めありは唇をぎゅっとかむ。


(いいえ、殺さなくちゃ)



耳をすますと、葉ずれの音がかすかに聴こえた。

 
そこに、いる。
 

めありは手にしていたロープを握りなおして、深い呼吸をひとつした。


静寂を切り裂くような、クチナシの壁を破壊する音の方に目を向ける。

そこにはめありと同じ、『女』、が立っていた。


幽鬼のような姿。

昨日の夜、ちらりと目にした華やかな服は、この家の敷地内をさまよっている間に、ボロボロになってしまっている。

靴はとうに脱げおちて、傷だらけの大きな足で、『彼女』はぼんやりと地面の上にたっていた。

獲物と正面から向かい合うことは、予想していなかった。


めありは、相手の眼をじっと見た。


焦点の合わない瞳は、めありの殺意どころか、姿すらも認知していなかった。


(死んでいる、のね、こころが・・・・・・)

 
めありはロープを捨て、懐に隠していたアーミーナイフを握りなおす。

 
「ごめんなさい・・・・・・」

 
小声のつぶやきを合図に、めありは飛ぶような勢いで獲物の腹を狙って突っ込んだ。
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