めあり、ほんとうのわたし
(夢・・・・・・?)

全てが終わった後、めありは母屋の一部屋を借りて休んでいた。

疲れから、少しうとうとしていたらしい。

昔誰かに語った、自分の名前の話が、眠りの向こうで再現されていた。


雨は夜の闇が深くなるにつれ強くなっていた。

一流ホテルのスイートルーム並の調度品に囲まれて、めありは闇の中にうずくまっていた。

 
(よくある話・・・・・・ホルモンの射ちすぎで壊れていくひとたち・・・・・・手術に失敗して、死んだひとたち・・・・・・よくある話じゃないの・・・・・・たくさん聞いた話じゃないの・・・・・・)


光の気配がした。

「お疲れ、めあり。今日はこのままここにいていいぞ」

相変わらずの、感情のこもらないアンヌ・マリィの声。

「依頼者は、お前に礼をいってた。安らかな顔をして死んでいたって。おかしくなる前の彼女の表情で、眠るように・・・・・・」

包まれた闇の中から、めありは鷹揚な返事をした。

「何もかも急ぎすぎただけ、俺はそう思う。前が見えなくなるほど恋をしてしまえば、相手が男だろうと、女だろうと、関係なかったはずじゃないか」


「わたしは・・・・・・女です。殺したあのひとも、女です・・・・・・」


ドアの閉まる音とともに、部屋はまた真っ暗になった。

ライターのガスのにおい、アンヌ・マリィの呼吸音。


「俺はあの時、お前に約束をしたな。仕事をすれば、お前の望みはかなえてやる、と」

「望みが叶っても、あんな末路が待っているかもしれないのに、気軽に言えたもんですね」

布団に包まれたまま、胎児にまで戻れないだろうか、身体を作り直すことはできないのだろうか。

めありはそんな夢想をしながら、マリィの言葉を聞いていた。


「めあり。ひとつだけ、信じてくれないか。今のお前の望みは、俺の名前にかけても、必ず叶えてやる。いいか、それだけは・・・・・・信じてくれ。それが孝作さんの遺志でもあるしな。」


雨の音が聞こえる。


この雨の音の響きと同じ強さで、マリィは言った。


愛情も、同情も混じっていない、冷静に事実を伝える、そんな感じの声だった。
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