めあり、ほんとうのわたし
クラブ『ガニュメデス』は、フロアショウのダンサーから、飲み物を運ぶウェイター、ウェイトレスに至るまで、どれもはずれがないほどの、キレイな、またはカワイイコたちがそろっていると評判の店だった。
皆、黒光りするエナメルの、特別あつらえの衣装に身をつつみ、店のあちらこちらで華やかさをふりまいている。
しかし、店の客をよく見ると、誰も彼や彼女たちに注意を払っていないのがわかる。
いくら可愛かろうが、美しかろうが、目に入らないのだ。
なぜなら、今宵の客はみな、「ラバードール」を心待ちにしているのだから!
ふと、店が暗黒につつまれる。
誰もが呼吸を止めて、これから訪れる至福の時間を予感した。
スピーカーから、コントラバスの肉感的なうごめきが響き始める。
目を凝らすと、闇の中からじょじょに、何かが空間からたちあらわれ、それは音にあわせて、かたまりになっていく。
目もくらむ光が、その存在を完全にした時、店中の人々は歓喜の渦につつまれた。
鈍く光るゴムの皮膚が顕在化させるのは、ここにいる誰もが望む理想の身体。
ネコを模したマスクからはみ出した黒髪が、人工的な質感の中に潜む、生の肉体の熱さを想起させる。
身体をつくるラインは猟犬のようであるのに、観客はラバードールにネコ科の動きを見る。やわらかな、艶めかしい、流れるような動き!
ラバードール!
ラバードール!!
人々が口々に囃したてる。Rubberにつつまれた、人々のLover。
彼等の歓声は、ラバードールへの賞賛であり、決して手の届かない美しさへの羨望の叫びでもあった。
音楽が佳境に入る。観客の熱狂は沸点に達している。
誰かが、ラバードールのまなざし欲しさに、こう叫んだ。
「めあり!!」
マスクの中の視線が、声のするほうに向いた。
鮮血のような口紅をさした薄い唇が、かすかに微笑んだ。
皆、黒光りするエナメルの、特別あつらえの衣装に身をつつみ、店のあちらこちらで華やかさをふりまいている。
しかし、店の客をよく見ると、誰も彼や彼女たちに注意を払っていないのがわかる。
いくら可愛かろうが、美しかろうが、目に入らないのだ。
なぜなら、今宵の客はみな、「ラバードール」を心待ちにしているのだから!
ふと、店が暗黒につつまれる。
誰もが呼吸を止めて、これから訪れる至福の時間を予感した。
スピーカーから、コントラバスの肉感的なうごめきが響き始める。
目を凝らすと、闇の中からじょじょに、何かが空間からたちあらわれ、それは音にあわせて、かたまりになっていく。
目もくらむ光が、その存在を完全にした時、店中の人々は歓喜の渦につつまれた。
鈍く光るゴムの皮膚が顕在化させるのは、ここにいる誰もが望む理想の身体。
ネコを模したマスクからはみ出した黒髪が、人工的な質感の中に潜む、生の肉体の熱さを想起させる。
身体をつくるラインは猟犬のようであるのに、観客はラバードールにネコ科の動きを見る。やわらかな、艶めかしい、流れるような動き!
ラバードール!
ラバードール!!
人々が口々に囃したてる。Rubberにつつまれた、人々のLover。
彼等の歓声は、ラバードールへの賞賛であり、決して手の届かない美しさへの羨望の叫びでもあった。
音楽が佳境に入る。観客の熱狂は沸点に達している。
誰かが、ラバードールのまなざし欲しさに、こう叫んだ。
「めあり!!」
マスクの中の視線が、声のするほうに向いた。
鮮血のような口紅をさした薄い唇が、かすかに微笑んだ。