めあり、ほんとうのわたし
『羽島家之墓』と書いてある墓石の前。

既に誰かが訪れた形跡があるが、めありはそれを消すように、改めて墓を掃除し始める。
 
排除した花や菓子などを新聞紙の上に、無造作に、それから少しの嫉妬をこめて投げ捨てる。
 
ばらまかれた菓子に、アリが一匹、二匹とたかりはじめる。


「来てたのか?」

無心だったところに、いきなり声をかけられ、めありは雑巾をおとしそうになった。

ふりかえると、尊大そうに身体中に肉をつけた老人が、高級な三つ揃いのスーツに肉を無理くりおしこめて、にやにやと下卑た顔で笑っていた。

傍らには黒づくめのスーツを着た男性秘書を二人引き連れている。

めありが表情を硬くしたまま会釈をした。

それをうけると、老人は二人の男に指示をして、その場を立ち去らせた。

「お前たち、ちょっとはずしてくれ。よほど緊急の用以外は、お前らで対処してかまわない」

「かしこまりました」

老人は肥えた身体を、めありの隣に割りこむようにしゃがみこむ。

「線香はあるかね?」

彼にめありは線香をさしだすと、彼は線香に火をつけ、あまり気持ちがこもってないような合掌をする。

(ほんとうに・・・・・・親子なのかしら)

そう思うのも仕方がない。

実際この男は、ただ単にめありの恋人だった男の、生物学上での父親でしかなく、そういった子どもが他にもたくさんいるんだと、マリィからきいた。

老人は脇に捨て置かれた花や菓子をみて、いやみたらしい口調で言った。

「孝作の嫁は仕事があるから、朝早くに来ると言っていたが・・・・・・」

「そのようですね」


藤原公道。


一大企業、藤道物産グループ会長として、次期経団連の会長職も噂されるほどの人物。

マリィの表向きの雇い主であるが、マリィ自身は、彼の世界での藤原の通り名『望月(ぼうげつ)』をあまり好いてはおらず、彼としては、表でも裏でも、ビジネスライクな付き合い程度の距離を保っていたいらしい。
 

でもめありは、この男と一生切っても切れない縁ができてしまった。


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