めあり、ほんとうのわたし
ふたりはしばらく沈黙を続けた。

藤原はケースから葉巻を取り出し火をつけて、墓石の上に置く。

「孝作の好きな銘柄を知らんでな。タバコだけじゃない、なんにもわしは知らないんだよ。おおっぴらに自分の息子といえないから、だろうな」

「あのひとは、タバコよりはお酒が好きだったんです・・・・・・タバコを口にするのはたまにしか見かけたことがなくて。すごくストレスがたまったときだけ吸いたくなるって」

「孝作が死んだとき、タバコを吸ってたそうだな」


路上に倒れている孝作。

雨で濡れたアスファルトに血が広がっていく。

呆然と孝作をみつめるめあり。

階段の途中に火のついたタバコが転がって煙をだしている。


「ところで、今の『仕事』はどうだね」

「どちらですか?」

「どちらも、だよ」

「どう、お答えすれば・・・・・・ただ、藤原様や、アンヌ・マリィさんのご助力には、心から感謝しています」

「万里に聞いたら、お前は性根が真面目でいい、といっていた。わしの周りにもひとりは欲しいな。本当に残念だよ。お前が・・・・・・」

藤原がいつもの言葉を吐き出しそうになるのを感じて、めありはそっと目を伏せた。

「あるがままの自分を受け入れていればな」

もう、めありはこの言葉に反応を返さないようにしていた。

最初にあったときから、何度きいたことだろう。

「今、目の前に存在するものが、ひとにとっての真実だろうに。本当の自分、などというありもしないものを求めるから、君は苦しいのではないのかね?」

「確かに、男である自分を受け入れることができるのなら・・・・・・楽なのかもしれません。そんなこと考えなければ、生きて行くのなんて簡単かもって思うときもあります・・・・・・でも、実際はそれが一番苦しいことだと、気づきました」


「ひとを、殺してまで『本当の自分』を手にいれること、かね?」


藤原は薄く冷酷な笑みを浮かべた。

「孝作さんもそうやって・・・・・・いろんなイジワルをいって、わたしが困る顔を見ては喜んでました。そういうところ、やっぱり藤原様と孝作さんは、親子、なんですね」


めありのまぶたの裏に、孝作の姿が横切った。
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