【短編】海に降る雪
『だから行くなって、あれほど言っただろ』
寝る前の、恒例のユウマとの電話。
「うん、さすがに反省。でも、なんで」
ユウマはちょっと自慢気に話し始める。
『俺が死ぬ二日前くらいかな、あいつらがコソコソ話してるのを聞いたんだ。「エーコを誕生日にやっちゃおう」って。どこでやるか、どの男を呼ぶか、しっかり聞かせてもらったよ』
「そうなんだ……」
『それで、おまえは性格的に断らないだろうと思って。絶対俺が助けるって決めたんだ。』
真剣なしゃべり声。
『まさかそれまでに自分が死ぬとは思わなくてさ。でもエーコが無事で、本当よかった』
今度は、心底私を思いやってくれる優しい声。
「うん……ありがとう。でも、どうしてあんなことできたの?」
『俺の携帯だよ』
「携帯?」
『携帯なくしたって言ったけど、あれ嘘。第一教室に仕掛けておいたんだ。俺が電話したときだけ自動的に通話はじまるように』
それからユウマは、自分の携帯で様子をたしかめながら、
私や他の携帯に電話をかけたこと、
私にしか電話がかけられないのも嘘だという事、
担任にも電話で報告したことを誇らしげに語ってくれた。
『それに普段から言ってたろ、俺が』
「ヒーローは最後の最後に現れる、ね」
二人で笑いあう。
調子に乗らなきゃ完璧なんだけど。
でも、完璧じゃないのがユウマらしいな、と思った。