黒い羽根
ゆさゆさと肩を激しく揺らすマリアさん。僕は少し頭がくらくらしながらも、ようやくなんとか声を絞り出した。
「……って、言われても……」
いきなり母親とか言われても実感なんて全然湧かない。
「さあ、何はともあれまずは智彦の家行こう。ここまで来るの結構大変だったんだから~……ちょっとゆっくり休みたいって思っても仕方ないじゃない? それにお父さんの顔も久し振りに見たいし」
「あの、でも。もう父さん……いないし。三年前に死んで……」
「やだ。それくらい知ってるわよ~。でも遺影くらいは飾ってあるでしょ? ね。早く行こう行こう」
マリアさんは僕の肩を掴んでいた手をパっと離すと、今度は腕を強引に掴んで引っ張りだした。
「や、ちょっ……ちょっと待ってください。いきなり家にって言われても、僕、これからバイトですし」
「え~? バイトなんて休めばいいじゃない。生き別れた親子の感動の再会とバイト、そんなのくらべものにならないってものでしょ~」
「いや。感動の再会って言われても、全然実感湧かないし。それに僕のバイト先、昼間は店長のほかには僕しかいないんです。急に休んだら迷惑かけるし、店長大変だし……」
腕を振り解こうとするも、女の人とはとても思えないほどの力でしっかり掴まれててなかなか外れない。