黒い羽根
でも――
「でもっ……やっぱり……」
「しゃら~っぷ。とにかく今日はバイトは休み。一日みっちり親子の絆を深めようじゃないの」
必死の抵抗もむなしく、実にあっさりと却下され僕は引き摺られるようにその場からずるずると引き離されていく。
「ん? こっちでいいのか?」
「……いえ、逆です」
僕はもう逆らう気力もなく、首を横に振る。
首を振った拍子に、地面に倒れたままの自転車が視界に入り、
「あ……自転車」
取りに行こうとしたが、それすら許されず腕を引かれて連れ戻された。
「いらない、いらな~い。仲良く二人で歩いていくんだからっ。さあ、ちゃっちゃと歩くっ」
「ええっ!? 無茶苦茶な!」
「聞こえな~い」
……本当に。
この人、一体何なんだろう…………。
+++
「やっぱり、いい男ねえ~」
半ば強引に、僕のアパートに案内させられた。
二部屋しかない、狭いアパートの寝室に置かれた仏壇の写真をうっとりと眺めるマリアさん。