黒い羽根
ため息と同時に。
『残念……かすりもしなかった』
確かに、そう思った。だけど……
その台詞は僕ではない声によって語られた。
僕より少し高い、けれどハスキーな……女の人の声で。
「え……?」
思わず声が降ってきた方を振り返る。
黒いパンプス。
細身の黒いジーンズ。
黒いレザーのロングコート。
肩にかかる長いゆるやかなウェーブの艶やかな黒髪。
全身黒尽くめの中、やたらけばけばしい唇の赤が鮮烈な……。
「いや~……惜しかったねえ」
派手な顔した女の人は、それはもう残念そうに。目の上に手をかざし、トラックが去った方角を見ながらそう言うと、僕を見おろし笑いかけた。
――え?
「どうしてわかるんだ?」
口にしようとした言葉をまたもや奪われ、茫然とその人の顔を見上げる。