黒い羽根
『なんだいあの派手な女。』
ノイズのように耳障りな声が聴覚に滑り込んでくる。
『この子もおとなしそうな顔してあんな女を連れて歩くなんて……今時の若い男の考えることはわっかんないね~。どうせ騙されて貢がされでもしてんじゃないのかね。ほんっと、男って結局ああいう色気のある女がいいんだよねえ……いやらしいったら……』
そんな下世話な声が……やっぱり聞こえてしまう。
「ありがとさん~! またね~」
貼り付けた愛想笑いは崩さないまま無言でお釣りを受け取り、いつもと変わらない、普通だったらば愛想よくしか聞こえないであろうトーンの声に送り出されて店を出た僕は、少し離れた場所まで来てようやく軽く息を吐く。
胸にのしかかる、いつもの淀んだ気持ち。
そう、いつだってそう。
一見好意的な態度に見えても、誰もが暗く濁った裏側を持っている。
それを知っている僕の心もまた、同じような濁りを持っていて……それは人と変わらない。