黒い羽根
やはりそう思い直し、鼻歌混じりに軽快に先を行くマリアさんの背中を見つめる。
『そういや……母さん……なんだよな』
とてもそうは見えないけど。
この胸にあるらしい羽根が呼び寄せる悪意を思えば、それは本当のことだろう。
『だったら……』
僕が死んでマリアさんが羽根を取り戻すことが出来る……それも喜ぶべきことかも知れない。
この不思議な力のせいで極力人との接触を避けてきた僕は、人のためになるようなことをした覚えがない。
最後の最後に親孝行。
そういえば、子供の頃は母の日にカーネーションを持ってかえる友達の笑顔がまぶしくてうらやましかったっけ。僕には、花を持って帰る相手がいなかったから――
そっと胸に手を当ててみる。
僕の中で育った羽根がここにある。
カーネーションのかわりに……今更だけど……思ってもいなかったけど。
『お母さん』にプレゼントをあげることができるなんて、僕はラッキーだ。
何も無く、何も知らないまま寿命を迎えようとしてたんだから――