黒い羽根
「智彦~?」
気が付くと、先を歩いていたマリアさんと随分距離が開いていた。
ほっぺを膨らましたマリアさんは、やっぱりどう見ても母親というよりは、少し子供じみたところのあるお姉さんといった風にしか見えないけれど。
「あ、ごめん」
謝って足を速めた僕を見て、真っ赤な唇の両端を上げて笑うその顔。そこに邪気はひとかけらも見えない。
もっとも僕は、マリアさんの心だけは読めないんだけど。
それでも無条件でその笑顔を信じられるような気がするのはやっぱり……母親なんだからだろうと思う。
「何ぼ~っとしてんの」
追いついた僕の頭をポンと叩きながら言うマリアさん。
「言わなくても……マリアさんは僕の心読めるでしょ?」
返した僕に。
「う~ん……できるけどさ。魔力減ってるから読むの疲れんだよ」
そう言って。「せっかくしゃべれるんだしさ」
少し照れくさそうに笑う。
商店街を出て、人気のない昼間の住宅地を、僕らは並んで歩く。