黒い羽根


 鼻歌混じりに聞こえてくるヒールがアスファルトを叩く音。

 それを聞きながら。

『もしかしたら、マリアさんも少しは僕に会うのを楽しみにしててくれたんだろうか?』

 そんなことを思い、少し嬉しくなってきた。

 ……と、同時に少し気恥ずかしさを覚えて、マリアさんを追い越し一足先へ足を踏み出す。

「ちょっと~、なんで先いくの~?」

 マリアさんの拗ねたような声を背に、くすぐったい感覚を覚えつつそのまま前を歩く。

 僕の後ろで、カツカツと少し早まるヒールの音。

 そういえば、羽根がないと飛べないと言っていた。じゃあ、これまでマリアさんは何処で何をしていたんだろう?

「あのさ……」

 ふと思いついたことをたずねようと、足を止め振り向く。



 ――その瞬間。



 突然鼓膜を破りそうな大きな音が僕の耳をつんざいた。


< 42 / 114 >

この作品をシェア

pagetop