黒い羽根
「はい……大丈夫……です」
そう言う僕に、足場の上からおじさんが必死で謝罪の言葉を並べながら頭を下げる。
それに苦笑でかえす僕。
真横では――
「まだ、寿命じゃなかったみたいだねえ」
そう言って、マリアさんがクスクス笑っていた。
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「予兆だね」
部屋に戻り泥まみれの服を着替える僕の後ろで、マリアさんがもっともらしくつぶやいた。
鉄骨が落ちてきたのが何かの合図だったとでもいうのだろうか。
あの後、部屋に帰るまでのほんの数十分のあいだに、僕は随分な災難に襲われていた。
普段だったら平日の昼間にいるはずのない小学生が、学校の創立記念か何かで休みだったらしい。
そんな子供らが溢れる公園の横を通りかかれば、野球ボールが頭をかすめてみたり。
信号が変わりかけているのに焦ったのか。
人が歩いていることも確認せずにもの凄いスピードで突っ込んできた右折車に巻き込まれそうになったり。
更にはアパートの目前で、すれ違ったトラックの荷台の横のガードが急に外れて、詰まれていた土砂が雪崩落ちてきてみたり。