黒い羽根
母親どころか顔を見るのも初めての相手。
「あら~? 本当よ……まあ、随分久しぶりだけどさ」
――何を言ってるんだ?意味が分からない。
どう頑張って見ても二十代くらいにしか見えないこの女の人に、もう二十歳の誕生日を超えた息子がいるなんて誰も信じやしない。
――この人は一体何を……第一どうして……。
そこまで考えて。
――あれ?
僕はこの人と会ってからずっと感じている違和感にふと、気付いた。
――読め……ない?
「焦ってる? 焦ってる?」
ぐい、と僕の手を引いて立ち上がらせながら、愉快そうな表情で僕の顔をマリアさんが覗き込む。
「アタシの心……読めないでしょ?」
誰かの心が読めないからって、そんなの当然の事。
だけど、それは僕にとってはありえないことだった。