黒い羽根


 周りを包む光よりも更に濃い黒。

 マリアさんの翼と同じ、深い闇色をした……大きな、羽根。

 これが、今まで僕をさんざん悩ませてきた悪意を呼び寄せていた元凶?

 確かに……。

 その何処までも暗く重い黒は、一見艶やかにも見えるが、見れば見るほどに禍々しく不気味な色にも見える。

 羽根が持つという魔力がそう見えさせるのか。

 または、ただ単に。

 黒、というその色自体が、元来そういう性質のものなのかもしれない。

 自分の胸から浮き上がろうとしている黒い羽根をじっと凝視しているうちに……。

 思考までその闇色に染められてしまいそうな、そんな錯覚を覚え、僕はだんだん体が冷えていくのを感じていた。

 けれど、僕は腕一本も動かすことも、身震いすることも出来ず、ただただ目の前の光景を見ているだけしか出来ない。

 僕の胸にマリアさんの手がかざされる。

 ゆっくりとその手に引き寄せられるように、羽根は僕の胸からその全身を現し……。 

 そしてついには完全にそこから離れ、浮かび上がった。



 ……と、その瞬間。


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