黒い羽根
「母さんを、おねがいします」
頭を下げた僕に見せたミカエル様の穏やかな顔を見て……そう思わずにいられなかった。
「ミカエル様~。そろそろですよ~」
マリアさんが魔法の効果が切れるのを察知して声を上げ、ミカエル様との話も終わる。
ミカエル様はふむ、と小さく頷くと、
「さあ、マリア行きますよ。今からしっかり働いてもらいますからね……言っときますが、私はルシフェルほど監視は甘くありません。目は離しませんからね」
呑気に笑うマリアさんに釘をさすように言って、ふわりと大きな翼を広げた。
「はいは~い。わかってますよ~」
本当にわかっているのか怪しすぎるマリアさんの返事。
一瞬、ミカエル様の頬がひきつったように見えたのは気のせいだろうか。
いや……気持ちはわからないでもないな、と、少し同情の気持ちを覚えながら見送る僕の視界の中。
「だいたい……本当に……ルシフェルは甘すぎるのです……こと、愛情が絡むと……」
ぶつぶつ言いながらミカエル様は空へと舞い上がる。
追うようにマリアさんも新しい翼を広げた。
「はいはい、しっかり働きますよ~。怖い怖い」
言いながら僕を振り返り、ペロリと舌を出してみせる。
本性と言うのはそう簡単に変わるモノではないらしい……。
そんなマリアさんを見て思わず苦笑した僕にむかい、
「長生きしなさい」
マリアさんはそう言ってにっこり笑うと、僕の額を軽く小突き、
「また、たまに見に来るからさ」
去り際に、そう小声で囁いて。
光放つ白い羽根を羽ばたかせ、遥か天空へと飛び去っていった――