『若恋』榊の恋【完】
「おい!」
傾いで力の抜けた彼女を若が支えて叫んだ。
「なんで飛び出した!」
「…だって」
「見せてみろ!」
彼女の右手の小指から溢れ出す朱色のもの。
見事に千切れて半分皮一枚でかろうじて繋がっている。
「榊、なんか押さえるものねぇか?なんでもいい」
血が滴り落ちて若のスーツも汚れていく。
「これを使ってください」
胸に入れていたハンカチを差し出すと、血止めで巻いて縛った。
何事かと集まりつつある人にさりげなく背を向け、完全に力を失った彼女を抱き抱える。
「一也が迎えにきますので。数分掛かるかと思います」
「………」
若の様子が少しいつもと違うと感づいたのはその時だ。
「若、…?」
じっと彼女を見下ろしている。
不自然に庇う左腕を気にして見ている。
「成田のところに運んでいいんですね?」