『若恋』榊の恋【完】
「頼む」
「はい。前広、いいか」
前広に命じて近くまできた一也を呼び寄せる。
あと数分で到着の予定だ。
「若、彼女はわたしが運びます」
「いや、俺が運ぶ」
一也と仁が来て、成田の所までと言い添えて若が彼女を抱いたまま後部座席へと乗り込む。
若の腕にあちこちに血を散らせた彼女が大事そうに抱えられている。
「榊、頼みがある。新しい携帯を用意してもらえねえか」
「?」
突然何を言い出すのかと思ったが本気らしい。
そのまま携帯を放って寄越した。
若を振り返ってみると滅多に見せない表情をしていた。
車内に落ちる空気が嫌でも重い。
一般人を巻き込んでしまったのは自分のせいだ。
街中を追われた時点で街を出るように指示すればよかった。