『若恋』榊の恋【完】
このままここで―――
「榊さん!」
ハッとして声のした方を見る。
今、護りたいひとを余計な血で汚すわけにはいかない。
「若、」
「後は俺がやる」
すぐ後ろには若と仁、拓也の姿が。
「榊は妹を連れてここを出ろ」
ちらりと横目で見て、助け出したばかりのひかるちゃんを目で差し合図した。
「俺たちに後は任せろ」
「ひかるさんを頼みます」
男を押さえていた腕から力が抜けた。
仁の腕と拓也の腕が床に這いつくばった男を押さえる。
「妹を連れて早くここを出ろ」
「若…」
「こんな恐ろしい場面見せてやるな」
「…そうですね」
「前広が正面にいる。先に車で家に戻れ」
若がひかるちゃんを連れて先に行けと低い声で言う。
小さな震える体を守るのが自分のするべきこと。
この凄惨な場所から一刻も早く連れ出すこと。