『若恋』榊の恋【完】
お願いがあります。
「榊さん、そんな真剣な顔をして何か?」
「ひかるちゃんをわたしに預けてもらえませんか?」
ひかるちゃんのお父さんは静かに振り返った。
特別驚いたと言う風でもない。
穏やかに微笑みを浮かべただけだ。
「うちのひかるは跳ねっ返りですよ」
「でしょうね」
「料理なんて卵焼きくらいしかできないですよ。作ってもまともに食べられるものが作れるかどうか」
「わたしが教えますよ」
困ったなという顔をしたお父さんに笑って答えた。
「右も左もわからない、子供なんです」
「…ええ、わかってます。大事にします」
「よろしくお願いします」
少し離れたところにいるひかるちゃんが笑んで手を振ってる。
「榊さん、わたしたちはしばらくここを離れることになるので…よろしく頼みます」