『若恋』榊の恋【完】
「わたしはりおさんが好きでした」
柔らかく笑って、ゆったりと座ってコーヒーを飲んでいる若の方を振り向いた。
それからりおさんに目を戻す。
「え?」
りおさんが小さく反応して目を丸くした。
「これだけは言っておきたかったんです」
そう。
自分なりのけじめだった。
言わなくてもよかったのかもしれない。
りおさんが今更自分の想いをどうすることもできないのは知っているから。
「言っておきたかっただけですよ」
にっこり笑ってみせるとりおさんは小さく頷いただけだった。
もうこれでりおさんへの想いを引き摺ることもない。
想い焦がれて眠れぬ夜を過ごしたことも、若に嫉妬して気が狂いそうになったこともすべて。
すべて、思い出になる。
「ありがとう」
「いえ。りおさんにお礼を言わなければならないのはわたしの方です」