『若恋』榊の恋【完】
「入りましょう」
「あの、榊さん、怖くて」
ひかるちゃんの足が止まった。
ひかるちゃんを独り占めできる空間をみつけるのはここしか思いあたらなかった。
「わたしがいますよ」
「だって、お化け…」
「本当にはいませんよ。中に入ってるのは生きている人間です」
「そう、だけど…」
ひかるちゃんが明らかに怖がる態度を見せたのが可愛くて意地悪をしたくなる。
年甲斐もなく少年のようだと思った。
「ふたりになりたいんです」
「…うん、」
伏し目がちになったひかるちゃんが身を寄せた。
握っている指先に力が入る。
「行きましょうか」
ひかるちゃんの手をひいて一歩踏み出した。