『若恋』榊の恋【完】
揺らぐランプの灯りの中、離れの方へと女将が案内していく。
渡り縁を通り、離れへ着くともうランプは灯されていた。
「榊さん、お食事は?」
女将が聞いた。
「まだです」
「そう、それじゃあ、持って来るわね」
「お酒は?」
「いただきます」
「奥さんは飲む?」
「まだ二十歳前なので」
お酒は断りひかるちゃんの好きなオレンジジュースを頼んだ。
女将が気を利かせてすぐに席を立つ。
女将が出て行って、ひかるちゃんが緊張しないようにと窓辺の床に直に座って外を見た。
ここはテレビもない。
電気は通っているが、わざと昔からの宿としての売りを大切にしている。
「虫の声が賑やかですね」
外から直接聞こえてくるのは鈴虫か。コオロギか。
あるいはバッタかキリギリスか。
「ステキなところだね、榊さん」