『若恋』榊の恋【完】



テーブルの側に座っていたひかるちゃんの声がすぐ後ろの背中からした。

気づくと座布団を二枚手に持ち一枚を差し出している。

座布団に座り直してふたりで寄り添って目を瞑る。

聞こえるのは虫の賑やかさと、近くを流れる川のせせらぎの音。



時間が止まる。




寄り添っていられればこんなにも幸せだ。


「…ひかるちゃん」


額を掻き分けてくちづける。

ピクッ

反応を示すものの拒否はない。

薄い氷のような壁を以前は感じたが今はそれもない。

歩みよって自然に重なるふたりを時は待っている。



「榊さん、食事を運んできたけど開けるわよ」

女将とすぐ後ろにお酒を持った仲居がいて、食事を置くとすっと出ていった。

もう朝までここには誰もこない。


テーブルに置かれた日本酒を引き寄せる。

口に含んでひかるちゃんのくちびるを割り注ぎ入れた。




< 206 / 440 >

この作品をシェア

pagetop