『若恋』榊の恋【完】
里桜?
跳ねた車が急ブレーキをかけ停車した。
その中にいた男はハンドルに頭を乗せたまま動かない。
里桜?
足が鉛のように重くて前に進まない。
里桜に駆け寄りたいのに体が痺れて動かない。
数メートル先に里桜がいるのに震えて動けない。
里桜?
這うようにして車道に横たわった里桜に近づく。
「うそ、だろ?里桜?」
手を伸ばす先には目を見開いたままの里桜が転がっている。
「ウソだよな?…なんかの悪い夢だよな?」
赤黒いべったりしたものが流れて触れ指先についた。
「血が…?」
「こんなに流れたら里桜が死んでしまう」
体から湧き出る血を掬い体に戻す。
間に合わない。
体に戻す血より流れ出て広がる血の方が遥かに多い。
汚れる手で必死に掬う。